在校生・卒業生の声

企業法コースを修了して

奥乃真弓企業法コース(博士課程):平成30年度修了


筑波大学大学院への受験を決めたのは、修士課程で企業倫理を学び、現代企業が抱えるグローバルリスクという観点からグローバルスタンダードを知るためにはその基礎となる法学の知識が欠かせない、と考えたからでした。また、筑波大学大学院企業科学専攻企業法コース(博士後期課程)は修士(法学)以外の修士号を持つ者、言い換えれば私のように修士課程まで法学を専門としていない者にも受験資格がある、というのももう一つの理由でした。でも、これは大きな間違いとまでは言いませんが、大きな試練の始まりでした。それまで法学に全く縁のなかった私は言葉の意味から躓きました。そのため、1年目はまず法学の知識をつけることから始めました。法学論文の書き方や法学文献の引用や記載も初めてであったため、修士課程の法文献学に始まり会社法や法と経済学といった講義を履修しました。博士論文には外国法の調査が必須であるため1年生の後半からはLaw journalの多読と精読を始めました。このときから修了するまでの3年間、毎日のように持ち歩いていたのがThe BluebookとBlack’s Law Dictionaryでした。
博士論文は一つのテーマの追求であり、完成には多大な労力と時間が必要です。法学の知識なく入学した私に、一から法学論文の書き方を教えて下さった指導教員、副指導教員の先生方をはじめ大学院の先生方には感謝の言葉しかありません。先生方の真摯なご指導がなければ決して3年間で論文を提出することはできませんでした。指導教員の先生に面談をしていただくと時間があっという間に経ってしまい、気がつけば午後11時ということも頻繁にありました。また、副指導教員の先生は細やかなアドバイスとともにいつも励ましてくださいました。先生にご相談すると不思議と落ち着き前に進むことができました。
論文を実際に書き出すとまるで迷路に入ったように感じる時があります。迷って迷って進めども壁にぶち当たり、本当に書き上げられるのかと思う時もありました。そのような時、自然と足が向いたのが大塚図書館の竹内文庫(竹内昭夫先生寄贈図書)でした。Melvin A. Eisenbergの書籍に先生がたくさんの書き込みをされているのを見ては先生のご研究の一端に触れたような気がしてもう少し頑張ろうと思えました。2年生の春休みに訪れた米沢の我妻榮記念館では我妻先生がお作りになった研究カードや年表に鼓舞されました。また論文執筆中には「間違った方向に行っているのではないか」「もっとほかの領域を調べなくてよいのか」などと不安になったり落ち込んだりするときもありましたが、講義や面談での先生方からのご指導あるいは法学論文を通じて、星のように自分の中で散らばっていた知識がふと結ばれる時がありました。「あの時、学んだことはこういうことだったのだ」「これはあのことだ」とそれらが結びつくときがあり、もう少し研究を続けようと思いました。Steve Jobsのいうconnecting the dotsのように、これは研究の醍醐味ともいえるでしょう。
アメリカでは学位授与式をcommencementというように、論文提出、博士後期課程修了は「終わり」ではなく「始まり」です。研究においては通過点でしかありません。私の研究はこれからも続き、迷いながら新たな知識を身につけ、さらにそれらの知識を結びつけていきたいと思います。一人でも多くの方に筑波大学大学院で研究の醍醐味を感じて頂きたいと思います。

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